朝戸一聖さん

TANSAN 朝戸一聖さんインタビュー ゲームアイデアを次々と着想できる、タノシイルールの法則

あなたは「ボードゲームを作ってみたい」と思ったことはありませんか?

チャレンジした瞬間、「どう作ればいいか分からない」「作ってみたけど、ゲームバランスを考えるのが難しかった」「プロ志望だが、なかなかアイデアが湧いてこなくて困っている」など、色々な壁にぶつかります。今回TALでは、そんな夢見るボードゲームクリエイターさんに贈るインタビューを企画。起業から2021年までの10年間に200個以上のボードゲームを手掛けたTANSAN朝戸さんに、ゲームアイデアやアートワークの着想法についてうかがいました。それでは、朝戸さんのゲーム制作の世界を冒険していきましょう。

TANSAN 朝戸一聖さんインタビュー「大好きなボードゲームで楽しく生きる、オモシロスキマ戦略」はこちら。

ボードゲームクリエイター 朝戸一聖さん

ルールとは「空間を作る仕組み」

TAL:朝戸さんはオリジナルゲームやリメイクゲームを多数制作されていますが、着想の源泉を教えいただけませんか?

朝戸:ルールですね。「世の中のルール」にはゲームっぽいものが沢山あります。法律とか交通標識とか。皆さんルールに縛られて生きていますよね。僕はルールとは「空間を作る仕組み」だと思っています。鬼ごっこ・かけっこ・どろけいなど、遊びも全く同じです。ルールが違うだけで遊び方が変わります。ルールで縛ることで空間が面白くなったり嫌なものになったりもします。

ルールを変えることで世の中の見え方が変わる、その最たるものがボードゲームです。テレビゲームはルールを自動で実行してくれるのでルールが見えにくくなっています。例えば、マリオはボタンを押せば勝手にジャンプします。一方、ボードゲームは自分たちでコマなどを動かすので、ルールを理解していないとマリオをジャンプさせることができません。

TAL:なるほど。ルールを理解してないとできないのがボードゲーム。

朝戸:そう。だからボードゲームでたくさん遊ぶとルールを考えざるを得ないというのがあって。「テトリス」はテレビゲームだったら自動で「これは、はまらないよ」「揃ったから消すよ」とやってくれます。ボードゲームにも「テトリス」のようなゲームがありますが、勝手に揃えて消えてくれたりしません。「こうなったら消えますよ」と自分が分かっているから消せるんです。こんな風に「ルールを実感できる、分かる」ところにボードゲームの良さがあります。

TAL:ボードゲームで遊びながら、盤上のルールを認識されているのですね。

 朝戸:料理など「何となくやってること」にもルールがあります。レシピ通りに作るとおいしくなりますよね。料理でも何でも一個一個の工程を意識します。何となくではなく明確に「こういうルールなのかな」と考える感じです。

POINT1:世の中にあるルールを認識する

日常の面白さををゲームにする

TAL:まず、ルールを意識していくのですね。とはいえ、ルールを見つけて…それをゲームにするには…、難しいです。どうしたらいいのでしょうか?

朝戸:一番ベーシックなボードゲームの作り方は「日常の面白いなと思う体験をパッケージング化する」ことです。これが一番楽でしょう。

例えば、レジに並ぶとか、ゲームっぽいじゃないですか。早く抜けるために複数の条件を瞬時に見極めて一番空いてるところに並びますよね。前の人の商品量やレジの人の手際の良さをすべて見て。前の人がもたつくタイプだったら列を移ったりすることもあるわけです。

そういう「面白いなと」感じたことを「この現象をテーブル上で再現するとゲームになるよな」というふうに考えます。結果、それをテーブルに乗せた時に全然面白くない可能性もありますが、やっぱり日常で発見した面白さをゲームに落とし込むのは、作り方として王道です。

TAL:日常で発見した面白さをゲームにするんですね。

朝戸:「ごはんと味噌汁とおかず、うまく食べるの難しいよな」とかあるじゃないですか。最後にご飯だけめっちゃ余ってお茶漬けとかふりかけで食べる人もいますが、基本的には皆さん、ごはんとおかずを同時に食べ終わるように分配します。

TAL:確かに、同時に食べ終わるように工夫しています。

朝戸:シャンプーとリンスも同時に使い切れないじゃないですか。それで「同時に終わらせるにはどうすればいいか」みたいなことを考える人もいて。今のシャンプーが終わったら次のやつに変えたいけど、リンスも一緒に変えたいし、みたいな悩みがあるわけです。そんな「面白さを感じた日常」から「うまくシャンプーとリンスを同時に交換できたら勝ち」みたいなゲームができるわけです。

TAL:なるほど!日常の面白さをゲームにするのですね。よければ、この方法で制作したゲームを教えてください。

朝戸:雲がゴジラに見えたりすることがありますよね。それをゲーム化したのが「ヒットマンガ」です。

ヒットマンガ
「かるた」をベースにしたパーティーゲーム。読み札に書かれているのはマンガのひとコマ。空白のフキダシにぴったりはまるセリフをその場で考えて読み上げ、他の人はそれがどのカードのことか当てる。瞬間の想像力と正解を見極める推理力、そしてキャラクターになりきる演技力が勝利のカギ。GOOD TOY 2019受賞作品。
ヒットマンガ
ヒットマンガ
「かるた」がベースのパーティーゲーム。マンガの一コマにピッタリハマるセリフを考え、他の人はどのカードのことかを当てる。瞬発力・推理力・演技力が勝利のカギ。

TAL:「ヒットマンが」は日常から生まれたのですか!

朝戸:そうなんです。日常で、面白いと感じたことをメモったり覚えておくと作りやすいですよ。

TAL:確かに、確かに。シャンプーとリンスに着想を得て「何かを同時に終わらせる」ゲームを作ってみよう!みたいな感じですね。

朝戸:そうそう。冷蔵庫にある野菜を使い切るゲームとか。僕、今、野菜が定期的に届く宅配サービスを使っているんですよ。週に1回来るのですが、届くまで中身も量も正確には分かりません。だから次に来るまでに使い切らなきゃいけないので料理が在庫に左右されます。とはいえ中華など特定のジャンルを食べたくなったら具材が足りないな、となる。そんな時に材料をやりくりするのってゲームっぽいですよね。

TAL:次の配達までにいかにキレイに使い切るかというゲームみたいですね。

朝戸:「そこにどういうルールがあるのかな?」と意識しながら生きるといいと思います。自分はシャンプーはプッシュ2回してるけどリンスは1回と気づいたら、それが自分のルールです。だからリンスはなかなか減らないんだな、と分かります。だったらシャンプーの半分の量のリンスだったら同時に使い切れるかなとか、いろいろ戦略が練れるわけです。これに髪の毛の長さ要素を加えたりしていくと、どんどんゲームっぽくなっていきます。

POINT2:日常の中の面白さをゲームにする

アートワークには大切な役割がある

TAL:ゲームルールができたら次はデザインかと思いますが、朝戸さんはキャラクターやパッケージのデザインはどのように考えておられるのですか?

朝戸:ゲームルールができていて、そのルールで遊んだ時にどういう感情を抱くか、どんな気持ちになるかを把握したら、次に「その感情は日常のあれに似てるな」と考えます。

例えば「同時に使い切るゲーム」というルールがあって、シャンプーとリンスを同時に使い切る時に似てるなと思ったら、そういうアートにする。おもしろいチャンネルを探すザッピングの感じに似ていると思ったらテレビをモチーフにしたゲームにする。こんな感じです。

または「体験から得られるもの」を考えていくのも良いですよ。ぐるぐるとグラウンドを回るゲームがあったとしたら、回転してぐるぐる回っている様子が「何に似てるか」と考える。それは運動会なのか、それとも宇宙の惑星が回っている感じに似ているのか。こんな感じで当てはめます。

そして「ルールの理解をアートワークでカバー」してあげるんです。例えば「AとBを同時に減らしていく」というルールだけを聞いてもピンとこないことはよくあります。それをシャンプーとリンスにするだけで、みなさん体験しているから「ああ、なるほどっ!」とルールが伝わりやすくなります。

TAL:本当ですね!

朝戸:引いちゃいけないカードはドクロにすれば分かります。「日常に根差した出来事」をデザインに用いると、プレイヤーがルールを覚える量が減ります。ヒットマンガもそうですが「吹き出しが空になっているということは、何か入るんだな」とすぐ分かるじゃないですか。これが単に絵があるだけだったら、何かセリフを入れるのか、状況を説明するのかなど、覚えるルールが1個増えてしまいます。

誰でも吹き出しには文字が入る、セリフが入ると分かっているので「ここにセリフを入れたらいいんだな」と理解できる。ゲームを遊びやすく、分かりやすくするために物を使ったり絵のルールを持ってくる、プレイヤーがルールを覚える苦労を一つ減らしてあげる、それがボードゲームのアートワークです。

TAL:アートワークは人への優しさなのですね、素敵です。私もボードゲームを作ってみたくなってきました。

POINT3:日常の出来事をデザインに活かす

人が楽しめるものを作りたい

TAL:最後に、もし自分でボードゲームを作ろうと思ったら何から始めたらいいかアドバイスをいただけませんか?

朝戸:そうですね。やっぱり何でもいいから自分でゲームを作ってほしいです。自分ができる、作れるものを作ることから広げていくと良い気がします。サイコロ1個でも面白いゲームがあります。

この時に「ゲームを作りたい」というところを、もう少し掘り下げてみてください。

例えば、ボードゲームが作りたいのか、それともファイナルファンタジーのようなRPGが作りたいのか、みたいな。もしかしたら自分は「ゲームを作りたい=RPGのようなものが作りたい」なのかもしれません。「自分がどういうゲームを作りたいのか」をちゃんと意識しておくと良いですよ。

TAL:確かに、作りたいものでやることが大きく違いますね。ファイナルファンタジーなら大きな会社に入った方が良さそうです。

朝戸:そう。もしかしたら小説を書けば達成できるのかもしれない。やりたいことはゲームで体現させなくてもいいかもしれない。自分が作りたいものが壮大なストーリーだったら、小説仕立てのストーリーブックを作れば十分に達成できる可能性もあります。ボードゲームじゃないですが、これもゲームの一種です。まず自分の作りたいものの本質をちゃんと分析すると良いと思います。

TAL:ちなみに、朝戸さんはご自身のやりたいことをどう自己分析されているのですか?

朝戸:「ゲームという体験をより良くすること」が僕のやりたいことです。ボードゲームもテレビゲームも、別け隔てありません。だからサイコロを使うゲームも、超大作も何でもOKです。楽しみがより増えるようなものを作りたいんです。

TAL:人が楽しめるものを作ることが朝戸さんの幸せなのですね。

朝戸:なので、今年からテレビゲームも作っています。デジタルのゲームもそろそろやりたいと思っていて「ボードゲームっぽいデジタルのゲーム」は頑張りたいですね。

2021年の夏頃には『MYSPERYENCE』というVRで事件を体験できる推理ゲームを発売しますよ。マーダーミステリーというジャンルが流行っているのですが、それをVRでプレイするゲームです。

『MYSPERYENCE』のプレスリリースはこちら

TAL:VRを使った推理ゲームですか!

朝戸:そう。『MYSPERYENCE』は過去に事件が起きていて、5人の容疑者がいます。その5人がそれぞれ別の人の目線で事件を体験し、誰が犯人だったかを話し合います。容疑者の中には犯人を擁護する者がいたり、犯人は自分が犯人だと気づかれないように振る舞います。

TAL:他人の目線をVRで体験し、VRの世界で容疑者同士が犯人を推理するのですね。新しいですね。

朝戸:VRで事件を実際に見て体験するジャンルはまだないので、新ジャンルを作るぞ!とやる気満々ですよ。

TAL:朝戸さんのゲームの作り方を聞いて、TALもゲームを作ってみたくなりました。ネタ元が「日常」だから発想が尽きないところが特に感動しました。これから日常の中の面白さを探すのが楽しみです。今日はワクワクするお話をありがとうございました。新作VRゲームの大成功を編集部一同願っています。