クリエイターの推し本 プログラミングでアートするChiaki Uehiraさんの原点とは?

色々な分野のフリーランス・クリエイターが活躍するコワーキング/イベントスペース「オレンジパーク」。ここでトーク配信「読んで変わった!クリエイターの推し本座談会」が開催されました。今回TALでは同配信内容をベースに、職種の異なる3人の「自身を変えた本」について3話構成でお届けします。

第1話目は、合同会社ピクセルグラムの代表でプログラマーのChiaki Uehiraさん(以下:Chiaki)の推し本です。現在、Chiakiさんがされている「プログラミングを用いたアート活動」の出発点となった本が持ち寄られました。

聞き手はオレンジパークの園長でロックバンド「愛はズボーン」のメンバーでもあるGIMA☆KENTAさん(以下:GIMA)です。それではChiakiさんの過去のひとコマと、それが現在にどう活きているのか?というストーリーを一緒に覗いていきましょう。

写真右:プログラマーのChiaki Uehiraさん、左:MCのGIMA☆KENTAさん

クリエイターのギルド、ピクセルグラム

GIMA オレンジパーク園長のGIMA☆KENTAです。今日のテーマは「読んで変わった推し本座談会」です。これまでに読んでためになった本を、オレンジパークから3人のクリエイターに来てもらって一緒に紹介していきます。

一人目は、ピクセルグラムの代表でありプログラマーのChiaki Uehiraさんです。まずあなたが何者なのかを皆様に教えてあげてください。

Chiaki 僕はピクセルグラムの代表で、職業はプログラマーです。WEBサイトやシステムの構築だけでなく、プログラムを使ったアート活動もやっています。

GIMA ピクセルグラムは「こういう案件があるから誰かやりませんか?」と社内外に声をかけてチームを組んでやっているギルド的な組織ですね。いつ立ち上げたんですか?

Chiaki 今、僕は24歳なのですが、ピクセルグラムは学生の時に立ち上げた会社です。システムやウェブサイトを作っているのですが、WEBサイトってプログラマーとデザイナーだけでは完結しなくて、文章や写真など色んな業種の人が関わります。それならチームを組んだほうが良さそうという発想で案件ごとにチームを作るようになりました。

GIMA なるほど、プログラマーってお堅い人がやっているのかなというイメージがあったりするけど、Chiakiを始め周りのプログラマーにはカジュアルな雰囲気の人が多いね。

Chiaki それは意識しています。プログラマーには堅いイメージがありますが、それを変えていきたいと思っているのであえてフランクにしています。

GIMA プログラマーの堅いイメージを変える。それをピクセルグラムを通してやっていきたいということですね。

Chiaki そうですね。

ジェネラティブアート ✕ プログラミング

GIMA それでは、プログラマーChiaki Uehiraさんの「推し本」をさっそく紹介してもらいましょう。

Chiaki 僕の推し本はこれです。じゃじゃん。「ジェネラティブ・アート Processingによる実践ガイド」です。

「ジェネラティブ・アート Processingによる実践ガイド」
ジェネラティブ・アート―Processingによる実践ガイド
ジェネラティブ・アート―Processingによる実践ガイド
アーティストのためのプログラミング言語「Processing」を使って、美しく予測不可能な「ジェネラティブ・アート」をスケッチするための解説書。

GIMA ジェネラティブ・アート。早速わからんぞ、俺。ウィキペディアで調べたところ 「ジェネラティブと言うのは新たに創造すること、今まで存在していなかったものを生み出すと言う意味です。それまでに達成した以上の結果を生み出していくような、より高い創造的な意識でワークしていきます。」とあります。

Chiaki ウィキペディアだから難しく書いていますね。ジェネラティブ・アートはアートジャンルの一つです。ジェネラティブは製造・作成・作っていくという意味で、これにアートを足した言葉です。製造という意味でのアートは絵を描いて貼り出す感じですが、ジェネラティブ・アートは作っていく過程も踏まえて、更新していくアート、作り続けていくアートです。

そしてこの本は「ジェネラティブ・アートをプログラミングで表現するための本」です。

GIMA この本を読んだきっかけは?どういうタイミングで読んだの?

Chiaki 僕が初めてパソコンにガッツリ触れた高校生の時ですね。僕は工業高校のシステム学科で、プログラミングの授業でC言語に触れました。それがめちゃめちゃ楽しかった!昔からパズルなど頭を使う系の遊びが好きだったのですが、プログラミングはそのアプローチが似ていたんですね。

一方で、プログラミングはあまりビジュアル的ではないから、何だかよくわからない面もあります。メディア的ではないというか。

僕はギターなど色々な音楽もやっていたからメディアっぽいものが好きで。メディアっぽいものとプログラミングを掛け合わせたらどんなものができるのだろう?と思い、色々調べました。この過程で「プログラミングで絵を描く」というジャンルがあることやジェネラティブ・アートのことを知りました。

GIMA 音楽をやっていたというから、そういうメディア的な要素もプログラミングで落とし込めたらいいなと思って手にとったのがこの本だったと。

Chiaki そうです。僕は無機質なものが好きで、この本はジャケ買いでした。この本は中にプログラミングで書いたいろいろな絵が載っています。

GIMA アーティストはこの絵になると思ってプログラミングをしているわけではないよね?

Chiaki そうです。ジェネラティブ・アートでは、自分でプログラミングしていますが結果はどうなるか分かりません。プログラムにはランダム性やノイズという要素があって。そのノイズやランダム性を掛け合わせて絵を作ります。だからプログラムを実行するたびに違う絵ができます。

GIMA 矛盾している感じもするやん。プログラミングって数学的に言うと答えが絶対決まっているみたいな。それと違って、どうなるかわからないものをプログラミングしている。パルプンテ(※1)させているというか。俺も同じ経験がある。パワプロ(※2)で強いチームをコンピュータ対戦させてずっと見てたわ。

Chiaki それ結構似ているかもしれないですね。結果がどうなるかが分からないけど絵として存在する。

※1 パルプンテ:「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する何が起こるか全く分からない呪文
※2 パワプロ:コナミデジタルエンタテインメントから発売の野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」の略称

プログラムの堅さをアートでほぐす

「推し本座談会」配信の様子。

GIMA ちなみにジェネラティブ・アートは今の仕事に活かせてたりするの?

Chiaki 今の仕事では、僕のジェネラティブ・アートをイベントで展示したり、ウェブサイトでもそういう表現が求められることがあるので使えていますね。

GIMA 2ちゃんねるのひろゆき(※3)が「プログラマーはこの50年ぐらいは食いっぱぐれがなく、社会のコアを担っていく」みたいなことを言っていたけれども。これからはプログラマーがイキイキしていく世の中になるのかな、応用力のあるアート的な感覚を持った人が活躍していくのかなと。

Chiaki ひろゆきは「プログラマーは今めちゃめちゃ需要があってパソコン1つでできるから、手の空いた主婦もできる。スポーツのような努力や才能が必要なものと違って、勉強すれば何かしら作れたりする点が良い」と言っています。

プログラミングって色々なところで使えます。例えばKENTAはバンドをやっているよね。プログラマーと何かを一緒に作ったりするとか、畑違いのものを組み合わせるのもけっこう良いなと思いますね。

GIMA しかも素材は要らないやん!家を建てるには木やコンクリートを集めて作らないといけない。ウェブ上は資材が無限やから。横も縦もない。そうなった時に、ジェネラティブ・アートぐらい「どうなるか分からないもの」を作る場合、突出した頭の柔らかさがないと、面白くないものしかできないイメージがある。

Chiaki そうだね。僕はジェネラティブ・アートのような分野をプログラマーにもやってほしいと思っていて、これがきっかけになってもっと柔軟になっていったら良いなと思います。

GIMA この本を誰かにおすすめするとしたら同業者におすすめしたい?

Chiaki 同業者にもおすすめしたいし、アート的な人にも「プログラミングでこういうことができるんだよ」と伝えていけたらいいですね。見ているものは一緒だから、どちらからのアプローチも面白いと思います。

GIMA この本を読んだことが、今とどこかで繋がっていると思うのだけど、何が一番変わった?何を一番学んだ?

Chiaki 自分もプログラマーとして堅いところから始まったのですが、この本を読んでアート的な面白さをプログラムに取り入れるようになりました。パソコンを使った新しいジャンルへの足がかりというか。今は「パソコンって色んな表現ができて宇宙やな!」みたいに思ってる。

※3 ひろゆき:本名は西村 博之。日本の実業家。匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者であり、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人

インプットとアウトプットの間で

GIMA 大阪の名村造船所跡地であった「My Suggestion, Your Opinion.」というアート展覧会。Chiakiも出展してたやんか。その展示の内容がプリンターが置いてあって、その下に小さいコンピューターが組み込まれていて、不定期で紙がブーン!って出てくる。紙にはインプット・アウトプットに関する色んな種類の絵がランダムに載ってたんやけれども、あれはジェネラティブ・アートやね。

Chiakiさんの「InputとOutput(I/O)を意識した」ジェネラティブ・アート作品。「My Suggestion, Your Opinion.」より。
出力された紙が2メートルの高さから落下しさまざまな座標に配置される。

Chiaki そうだね。あれもジェネラティブ・アートの一貫ですね。小さいコンピュータに「インプット・アウトプット(に関する題材)を自動で描いて、その絵をプリンターに送る」というプログラムを書いた。だからプリンターが印刷する内容は毎回違います。

GIMA その芸術へのアプローチの仕方はめちゃくちゃ面白いね。なぜインプットとアウトプットをテーマにしたのか聞きたいね。

Chiaki プログラマーの仕事は「インプットとアウトプットの中間の仕事」と思っています。例えばiPhoneなどのデバイスから何かを入力した時に何かが表示される。プログラマーはそのiPhoneと入力されることの間で何が行われるかを設計する仕事です。

GIMA なるほど、なるほど。インプットとアウトプットの間をやってるんやな。

Chiaki 似ている例として。ギターにエフェクター(※4)があるよね。あれはギターがエフェクターにつながっていて、歪ましたり膨らませたりなど色々な効果を利用できる。このエフェクターを作るような仕事だね。

GIMA エフェクターではインプットをバチッと押した瞬間に音が変わってアウトプットがドン!と変わる。

Chiaki そうそう。その間で何をするかを記述するのがプログラマーの仕事。

GIMA 無限やな。これは、なんでもできるね。

Chiaki そうそう。その間なら何でもできる。ギターのエフェクターをプログラミングで作れるかもしれん。ちなみにオレンジパークの1周年記念イベントで作ってたのは、インプットがカメラの映像で、アウトプットがプロジェクターに写った映像だった。

GIMA 面白いね。すごい矛盾している。何が起こるかわからないようにプログラミングするって、なんか変な感じがするよね。

Chiaki そういう(何が起こるかわからない)プログラミングを組んでいるのだからアウトプットとしては成功なんですよ。

※4 エフェクター:ギターとアンプの間に繋いで、電気的に音を変化させる装置。アンプとはギターからの信号を増幅させて大きな音を出すための道具

オレンジパークで「推し本」に触れてみて

GIMA 今日は時間の都合で1冊の紹介だけど他にも本を持って来ているよね。

Chiaki 「UNIXという考え方―その設計思想と哲学」と「オペレーティングシステム」。IOSとかMacOSとかWindowsとか、そういう話ですね。これも高校生の時に読んだ本です。オレンジパークに置いておきますね。

UNIXという考え方―その設計思想と哲学
UNIXという考え方―その設計思想と哲学
UNIX的なものの考え方とは何か?OSの背後にある哲学を、9つの定理と平易な言葉で説く
オペレーティングシステム
オペレーティングシステム
CPUスケジュリング、並行プロセス、主記憶管理、仮想記憶、ファイルシステムなどのオペレーティングシステムの基本機能を、資源の仮想化の観点から丁寧に解説した本。

GIMA お一人目のゲストは、ピクセルグラムの代表でありプログラマーのChiaki Uehiraさんでした。今日は「ジェネラティブ:アート」という本を持ってきてくれました。ありがとうございました。

第2話に続く。

第1話の登場人物

Chiaki Uehira
Programmer
Chiaki Uehira
1996年生まれ。プログラマー。
クリエイティブチームPIXELGRAM代表。
コミュニティスペースORANGE PARK運営。
大阪を中心にプログラミングを使った様々は表現の制作を行っている。

MC オレンジパーク園長 GIMA☆KENTA さん

ORANGE PARKとは?
ORANGE PARK(オレンジパーク)は、出会い・体験・発見があり、つくって・あそべて・発信できる「クリエイターのサード・プレイス」。動画配信やメディアを通した文化の発信拠点としても運営。本で人と人がつながる「まちライブラリー」をスタート予定!