Voice of Professional シルクスクリーン作家が語る
循環するマイノリティの誇り

叫ぶ、踊る、歌う、書く、描く、叩く。

私たちは、小さい頃からあらゆる行動を通して自らの意思や主張を表現してきました。

今回、TALはユニークな表現行動のひとつ、”刷り込む”アクションに着目。

バンドTシャツや絵画制作など、幅広く利用される版画技法のひとつ「シルクスクリーン」によるオリジナルTシャツ制作を通して、少数派ならではの自己表現に取り組む作家の逆縞さんに、お話を聞いてきました。

<シルクスクリーンとは>
版画技法の一種。木枠やアルミフレームにメッシュ(スクリーン)を張った版に図案を写して、図案部分にインクを通して印刷する。版画の中でも図案が反転しないこと、版を一度作ってしまえば何度でも同じ図案を印刷できることが特徴。

逆縞
カルトデザイン工房店主
逆縞
某カルトデザイン工房の中の人兼デザイナー/アートディレクター

ディープ&カルトなデザインの衣料品をほぼDxIxYxで制作。
多数のバンド関連のデザイン、マーチャンダイズ製作などを手がける。

厚さ約0.1mmに刷り込まれた、深いメッセージ

NEVER SERVE “決して仕えない”

TAL(以下、T):真っ黒に羽!? かなり個性的なデザインですね。 

逆縞(以下、逆):平和を象徴する鳩に十字架が刺さったグラフィックに「NEVER SERVE(決して仕えない)」という言葉を添えたデザインです。

T:深い。その心は?

逆:例えば、宗教のような大きなものを信仰(従事)したところで平和が訪れるわけではないですよね。宗教戦争や民族間対立など「属すること」で起きる争いを批判することで、どこにも決して仕えず、自分の意思で生きよというメッセージを表現しています。

T:個人主義的なメッセージということでしょうか。

逆:はい、実際このデザインはドイツの風刺画家ジョン・ハートフィールドの作品「資本の生きるところ平和なし」と、イギリスのパンクバンドDischargeの作品「Never Again」へのオマージュでもあります。

(左)ジョン・ハートフィールド(1891-1968)の「ジュネーブの意義:資本の生きるところ平和なし。」(右) Dischargeの「Never Again」のジャケット。国際連盟の本部の前に刀剣で串刺しにされた鳩がコラージュされている。

T:もう少し詳しく聞かせていただけますか?

逆:Dischargeはジョン・ハートフィールドの作品「資本の生きるところ平和なし」をジャケットのアートワークに採用してNever Again(戦争を繰り返してはならない)というタイトルの曲を発表しました。

僕はそこからジョン・ハートフィールドとDischargeのメッセージを分解し、鳩に十字架を刺すことで「自分の意思なき信仰に生きても争いが起きるだけで平和はありえない。NEVER SERVE(誰にも仕えるな)」というメッセージに再構築しています。

T:厚さ0.1mmほどのシルクスクリーンに、ここまで肉厚なメッセージが刷り込まれていることに、静かに感動しています。デザインの他に、何か特別なメッセージや逆縞さんの独自性が伝わるポイントはありますか?

逆:グラフィックは細かく写実的に出しながら、プリントは一色のみという表現が多いです。インクの種類はグラフィックに沿って決めますが、最終的には黒に映えることを基準に作成しています。

黒にこだわる、理由がある

T:数ある色の中で、なぜ黒を?

逆:もともと80’sの北欧とイギリスのパンクロックが好きなこともあって、パンクやハードコア、ブラックメタルという音楽ジャンルのアートワークからの影響が大きいです。

T:実際に音楽を聴いて、何か強い信念のようなものをとても感じました。

逆:ちょっとマニアックな話になりますが、70年代にパンクが流行した結果、アートワーク(大手レーベルからの音源、グッズ販売など)は商業的なものになりました。

商業的なことに反発したパンクスたちは地下に潜り、レコードの作成〜グッズなどすべて自分で作るようになったできたのが80’sパンクシーンです。特徴としては暗く攻撃的な音楽、黒が多めのトゲトゲファッション、反権威主義、個人主義。アートワークにも黒が多用されて、カウンターカルチャーとして一番尖っていたのがこのへんの時代です。

何者にも染まらない「黒」

T:黒という色は、彼らの強い信念を示す特別な色なんですね。

逆:はい、まずマイノリティであること。そこに誇りがあることです。多数派の言うことが、必ずしも正解ではない。権威=正義でもない。

自分は何を正しいと信じるか。自分のことは自分で決める、何者にも染まらない、という強い意思を表す色としてパンクスたちは黒を好みました。僕のTシャツ制作が「黒に映える」ことを基準にしている背景にも同じ信念があります。

手仕事を通して、共鳴する価値観

T:デザインに刷り込まれたメッセージと、黒への思い。制作背景をお聞きして、改めて逆縞さんのTシャツを見ると、逆縞さんはもちろん、パンクスたちと対話しているような不思議な感覚になりました。

逆:量産や大手音楽産業といったメインストリームに依存しない。「全工程を自分で考えて、自分の手で実行する」シルクスクリーンのDIY精神と、パンクロックのインディーズ精神が、そう感じさせるのかもしれません。

T:何か通じる部分があるんですね?

逆:シルクスクリーンは、プリント用のグラフィックから版のメッシュ数、Tシャツのボディ選び、インクの色、プリントまで、すべて自分で決めて進めることができます。パンクロックも、録音から販売まで、すべてを自分たちで取り仕切って進めるので、共通点はあると思いますね。

T:生み出すものは違っても、根底では同じ価値観でつながっている。

逆:量産できるものに対しての、マイノリティの誇り…とも言えるかもしれません。

T:信念と一体になったデザインをTシャツに刷り込む、その手を動かすプロセスそのものが、逆縞さん自身とパンクスたちの強い意思が響き合う美しい空間になっているんですね。

シルクスクリーンにインクを刷り込んでいる様子

逆:Tシャツなんて、そこら中にあって、どこでも手に入るものです。

服飾産業というメインストリームの中で、ある程度誰にでも合うように量産されたものの中から選んだものを着る、というスタイルがある。その一方で、僕が作るオリジナルTシャツのように、自分に確実に合うものを少数の中から自ら探して選び取るスタイルもある。

後者は人を選ぶマイノリティですが、自分のことは自分で決める。誰にも何にも属さない、支配されないという強い意思を表現し、貫く信念のある人間にとっては、非常に大きな意味があると信じています。

シルクスクリーンTシャツの作り方

逆:オリジナルを作る喜び、それを人にカンタンに贈る喜びを同時に味わえるのがシルクスクリーンです。モノ作りに興味があるならぜひ始めてみてください。

T:詳しくご存知でない読者のために、大まかな流れを教えてください!

逆:シルクスクリーンは、大きく5つの作業に分かれます。ひとつずつ説明しますね。

<シルクスクリーンTシャツ制作の流れ>
【1】Tシャツを選ぶ
【2】版を作る
【3】インクを選ぶ
【4】プリントする
【5】完成!

【1】Tシャツを選ぶ

United Athle製のTシャツ

逆:僕が使っているのはUnited Athle製のTシャツです。他メーカーに比べて肩と袖が落ちており、スタイリッシュに見えるのと、ちょうどいいオンス数(生地の厚さ)でバランスが良いためです。

このメーカーはスタンダードなパターンのものから、トレンドに合わせたパターンまで幅広く展開しているので、プリントするグラフィックやイメージによって同じメーカーの中でパターンを使い分けられるのも魅力です。

今まで何種類か使ってきましたが、United Athleが一番襟が伸びにくく、長持ちする気がします。お気に入りのTシャツはヘビロテになるし、何年も着続けてもらうというのは作り手にとっては一番の幸せです。

【2】版を作る

作家自作の版

逆:シルクスクリーンの製版は枠に紗(スクリーン)を貼り、感光乳剤を塗って乾燥させた後、図版となるグラフィックを貼り付けて感光※させ、不要な乳剤を洗い流して完成です。

※紫外線の照射によって化学的な変化を起こすこと

枠やスクリーンも最初から自作することもありますが、Tシャツプリント用のサイズであれば、市販のアイセロフィルムやTシャツくんメッシュスクリーンを使うこともあります。

逆:メッシュのサイズは120がおすすめです。細かい線の出具合とインクの馴染み具合のバランスがちょうどいいです。版は大きさによっては自作するのですが、小さいサイズを作る場合は今でもTシャツくんスターターセットを使って製版します。

逆:オリジナルTシャツ制作を始めたくて買った機械です。何も知らないところからシルクスクリーンの基礎を覚えるまで重宝しました。

ただ大きさが正方形で決まっている為、大きい版が作りたくなったときには不便です。

昔は大きい版を作るときには、Tシャツくんで版を何枚かに分けて製版していましたが、面倒になって結局自作で枠を組んで作るようになりました。小さい版を作るときはTシャツくんの方が便利なので、自作と使い分けていく製版スタイルです。

【3】インクを選ぶ

ネット通販で手軽に揃うものばかり

逆:インクはプリントのイメージや仕上がりに応じて使い分けます。布用のインクは大きく分けて3種類あります。

1)ラバーインク

布の表面に塗料を載せるタイプのインクです。

プリントの色をはっきり見せたい時や濃色のボディにプリントする時などに使います。

ラバーインクでプリントにはRUBADAを使用しています。

他メーカーのラバーインクと比べても目詰まりを起こしにくく、枚数を刷るのに便利なのと、仕上げの熱処理がいらないところも地味に助かります。

2)染み込みインク

生地の繊維に染料を染み込ませるタイプのインクです。

Tシャツの風合いを活かしたい時や自然な色合いを出したい時に使用します。

染み込みインクでのプリントにはDYE COLORを使用しています。

インクがさらっとしていて使いやすいのと、乾燥後に出るちょっと薄めの優しい色合いがたまりません。

3)ハーフラバーインク

染み込みインクとラバーインクを混ぜたタイプのインクです。

柔らかさを出しつつも発色を出したい時に使用します。

ハーフラバーインクでのプリントにはT shirt.stのインクを使用しています。

発色は良いのに少し色が沈むプリントで古着感が出て独特の風合いを出るところが気に入っています。

<インク別>仕上がりの違いを比較してみる

逆:例えば黒の生地に白インクでプリントする場合、ラバーインクだとはっきりとした色合いになり、白と黒のコントラストが美しい仕上がりになります。

ラバーインクで刷り込んだもの。
鮮明なコントラストが、メッセージ性の強さを暗示させる。

逆:黒ボディの生地にはラバーインクが使用される事がほとんどですが、僕の場合は白や淡色ボディに使われる染み込みインクをあえて使用することもあります。

染み込みインクで刷り込んだもの。
生地とインクの調和が美しい。

逆:染み込みインクという名前の通り、生地にインクが染み込むので、濃色である黒ボディに使用すると沈んだ発色になります。白色の染み込みインクを使用した場合はグレー寄りの白になり、本来想定していた色は出ません。

ただ生地に染み込んだ白と黒の調和が美しく、偶発的な発色も個性として生きるような気がします。

【4】プリントする

逆:インクを版の上に載せてスキージで一気に刷り上げます。一番職人っぽいところでもあり、一番緊張するところでもありますね。

T:スキージとは、何ですか?

逆:スクリーンを通してインクをシャツに落とし込むヘラのようなもので、インクとシャツを圧着させて刷るのに使います。シルクスクリーンで一番重要な職人道具です。

スキージを使ってインクとシャツを圧着させる

スキージ

カワチ画材で購入したゴム製のものを愛用しています。

元々はTシャツくんセットに付属していたプラスチック製のものを使用していましたが、

細かい力加減のコントロールが出来ずに、版に起こした線が細くなるとどうしてもキレイに落とし込めなかったりしました。

ゴム製のものにしてからはより細く細かい線が落とし込めるようになったのと、同時にプリントした瞬間にキレイに入ったかどうかが直感的に分かるようになりました。

T:スキージで何回刷ると、どんな仕上がりになる、などの目安はありますか?

逆:何回刷るかによって微妙に色合いが変わります。コントラストをはっきりさせたい場合は2−3回くらい刷ります。あまり多く刷りすぎると、油絵の様に盛る感覚に近くなり、洗濯した際のプリントひび割れの原因になるので、注意してください。

以前にわざとひび割れさせて退廃的になるようにと、かなり厚めにプリントしたシリーズがあったのですが、長く着たいからひび割れさせないで欲しいという要望が多かったため中止したこともあります。

【5】完成!

写実的かつシルクスクリーンでしか出せないグラフィック表現が魅力

逆:今の時代、業者に頼めば安価でオリジナルTシャツは作れますし、インクジェットでもっと細やかな表現も可能です。

手摺りであること、使用インクによっても不規則性があり、同じプリントでも個性が違ってくる細部に関しては、自分自身で納得のいく形に作り上げるしかありません。試行錯誤の繰り返しですが、そこにDIYの本質があると思います。

信念とともに、その先へ

それぞれの信念を着る人たち

T:今後、シルクスクリーンTシャツの制作を通してやってみたいことや、目指しているものはありますか?

逆:作家として、より良いものを作り続けたいという思いは常にあります。自分のために刷り始めたTシャツですが、今はマニアックな人からの個別オーダーを受けて作っていて。

T:なんと!とっても素敵です。

逆:もとは自己表現として作り始めたTシャツが、自分以外の誰か、特にこだわりの強い人の自己主張や鎧のようなものとしても機能している光景を見ると、感動すら覚えます。

T:パンクスたちから始まった少数派ならではの揺るぎない信念の連鎖が、逆縞さん起点でも広がっているんですね。

逆:同じように、自分の作品もメッセージをただ受け取るだけでなく、誰かにとって何らかの発信をするインスピレーションの一部になれたら、とても嬉しいです。

僕が敬愛するCRASSというバンドのスティーブ・イグノラントはClashのライブを見に行った際にMCで「おまえらもバンドを始めろ」と言われてCRASSを結成しました。そして僕も、パンクロックのバンドTシャツがきっかけでシルクスクリーンでTシャツを刷り始めました。

同じ流れで、自分が作ったものを見て、シルクスクリーンに限らずDIYで何かを作りたいと思ってもらえるきっかけになれたら、作り手としてこれほど嬉しいことはありません。

T:国も時代も、生み出すものの違いも超えて、少数派のものづくり精神は大切に受け継がれていくのですね。

本日はありがとうございました。