2019年に放送された原田泰造さん主演のドラマ「サ道」をきっかけに世間の関心を集めているサウナ。その最大の魅力は、ドラマで「ととのう」と表現される「サウナで得られる究極の快感」だ。
今回TALでは、リモートワークを利用して日本中のサウナ施設に出かけているという熱波師でサウナーのゆーさん(以下:ゆー)にサウナの魅力をインタビュー。これを読めば「なぜサウナーが2時間あれば温浴施設に出かけるのか?」その謎が解ける・・・かもしれない。
テレビ東京・ドラマ「サ道」より
全国のサウナを巡る会社員
TAL:まずはじめにゆーさんについて教えてください。
ゆー:私はサウナが大好きな会社員です。サウナが好きすぎて熱波師(※1)やサウナ・スパプロフェッショナルの資格も取りました。ホームサウナは御徒町のプレジデントです。
リモートワークを推奨している会社に勤めているので仕事をしながら全国の温浴施設に出かけ、サウナを楽しんだり熱波師としてタオルを振ったりしています。拠点は東京ですが先週は沖縄に出かけていました。明日は福岡のサウナに行きますよ。死ぬまでに全国の温浴施設を体験するのが私の夢です。
「サ活」というのですが、日本中のサウナ施設とその口コミが載っているサウナ情報サイト「サウナイキタイ」(※2)につけているサウナログによると、私はサウナに週4〜5回通っているようです。
サウナイキタイより
TAL:2日に1回以上の高頻度。サウナイキタイにはご自身のサウナの記録である「サ活」をつけることができるのですね。
ゆー:そうです。自分のサウナの利用に対する統計が出るだけでなく、施設にチェックインできる機能や「サ活」を通じて知らない人と仲良くなったり、今から行きたい施設の口コミを見て「その日の水風呂の温度」を知ったり。
サウナイキタイは今やサウナのコミュニティです。コロナ自粛期間中は営業短縮やロウリュ(※3)イベントの中止情報などもシェアされてとても役に立ちました。だからサウナーの多くは「サウナイキタイ」に感謝しているんですよ。
(※1)熱波師 熱波師:一般的にはサウナ室でタオルを用いてお客さんに熱波を送る施設の人。ゆーさんは専門的に熱波を送る技術を学び熱波師の資格を取得している。日本で「サウナ室で熱波を送る」と同じような意味で使われる言葉にアウフグースがある。アウフグースはドイツで生まれた文化で、現地ではサウナ中の過酷な状況を楽しんでもらうためにタオルなどを用いてお客様を楽しませるトータルエンターテイメントを指す。 |
(※2)サウナイキタイ 日本にあるほぼ全てのサウナ施設が掲載されている。サウナーから寄せられる「サ活」情報から、行きたい施設のサウナ室内や水風呂の温度を事前にチェックすることもできる。 |
※3ロウリュ フィンランド語で熱されて上がった水蒸気のこと。日本のサウナではアウフグースのことを指す場合もある。 |
「サ道」で “ととのう” が効率化
TAL:そんなゆーさんがサウナを好きになったきっかけは何でしたか?
ゆー:エッセイ「サ道」※4タナカカツキ (著)とそのコミカライズ漫画を読んだことです。これらの本でサウナで「ととのう」に至るメカニズムを知り、実際にやってみたくなって。サウナ施設に行ったところめちゃくちゃ気持ちよくなった!
「ととのう」という言葉は20年ぐらい前からあったらしいのですが。エッセイでは「ととのう」に当たる表現は「ニルヴァーナ」と表現されていたこともあり、漫画で「ととのう」という言葉が登場するまではこの言葉を知りませんでした。
何となく「熱いところに入るんや、冷ますんや、それで休憩したら落ち着くやろう」というサウナの作法を真似していました。運動した後の気持ち良さに近い感覚です。
ところが「サ道」のおかげでめちゃめちゃ効率的にととのうようになったんです。ジグソーパズルのような楽しさでしょうか。決まった答えがあって、その答えを作りあげるだけなのに凄く楽しい。
最初は週末に行っていましたが、すぐに平日も行くようになりました。どんどん週末が待ちきれなくなって、それからはもう暇さえあればみたいな(笑)
TAL:「サ道」がサウナ体験を変えたのですね。
ゆー:「サ道」は言語化が凄かったんです。「サウナってそういうことだったんだ!」と、誰もが理屈で分かった。サウナーの間ではこのサウナ体験の違いを「サ道前・サ道後」と言うこともあります。
「マンガ サ道 ~マンガで読むサウナ道~」扉ページ。(c)タナカカツキ/講談社
※4「サ道」 「サ道」はタナカカツキ氏の作品。エッセイが最初に出版され、その後コミカライズされた。2019年に原田泰造さんを主演にドラマ化されると日本中でサウナブームが巻き起こった。 |
サウナは科学。脳内をβエンドルフィンで満たせ!
TAL:サ道前・サ道後!その違いを詳しく教えてください。
ゆー:今の50〜60代の方々は教科書なしにサウナを楽しんで来られました。もしかしたら私たちが考えている気持ち良さとは違う感覚を求めてサウナに行かれているかもしれません。
一方で「サ道後」と言われている言語化されたサウナ手法を実践している人たちは、脳内物質を出すために行っている人が多いです。
TAL:脳内物質を出すためにサウナに???
ゆー:人は脳内が「βエンドルフィン」で満たされると気持ちよいと感じます。サウナでこの脳内物質を出すことができます。
これをディープリラックスというのですが。体や脳が過酷で苦しい状態が一定時間続くと、脳がそのストレスを軽減するためにβ-エンドルフィンを分泌します。その状態で体を休めるとディープリラックスになり、劇的な気持ちよさを享受できます。ランナーズハイなどは走りながら気持ちよくなっている状態で、サウナの場合はそれを体だけリラックスしながら受けています。
TAL:そうなるためにサウナではどうすればいいのですか?
ゆー:これをサウナで実践するには、順番としては、まず交感神経を優位にして、後から体を副交感神経優位に持っていったらいいので、「サウナで温める→水風呂で冷やす→休憩で体温をもどす※5」という手順を行うとOKです。
※5「サウナで温める→水風呂で冷やす→休憩で体温をもどす」 このとき体の中では「サウナ室の熱で全身の血管が広がり血流が速くなる→体芯部の心臓は速く動いてるまま、水風呂で体表に近い血管を締める→休憩をとることで締めた血管と拍動のスピードがじんわり戻る」ということが起こっている。 |
これが逆に「冷やす→温める→戻す」となると非効率です。運動した後に40度位まで体温が上がっている状態から常温下で36度くらいに戻るまでにはかなり時間がかかります。一方で冷えた体は常温にいるだけで15〜16度の冷水に入った後でも10分位でもとに戻るんですよ。
こうして「体を温めて冷やして戻す」と言うサウナの手順が出来上がったのではないかと思います。意外とサウナは科学ですよ。
TAL:サウナは科学!
ゆー:もし人間がβエンドルフィンをはじめとした気持ち良くなれる物質を脳内で自由自在に出せるのだったら、薬物をやる人がいなくなると思います。優しい気分になれるので争いもなくなるかもしれません。漫画「サ道」の中で「イケメン蒸し男」くんが言っていた通りサウナは世界平和の象徴なんです。
気持ちよすぎて、視界が流れ落ちる!?
TAL:気持ちよさは世界平和級ですか。感じてみたいです。「ととのう」とは実際にどんな感覚なのですか?
ゆー:脳が癖になる気持ちよさです。トリップの仕方は毎回違いますね。体調やサウナ施設によって色々な「ととのい」があって「今日はこのパターンのやつか!」ってなる。共通しているのはどれも気持ちがいい!と言うことです。
気持ちよさを感じている時に脳では、サイケデリックな映像が見える時もありますし、横の線が入っている壁が目の前にあれば、模様が一生下に落ちていくこともあります。
視界がリズムを打っていたり、視界がフラッシュアウトしてどんどん真っ白になっていったり、世の中が右側に回転していたり。私は片頭痛からくる回転性めまいを持っているので分かるのですが、ととのって世界が回る感覚はめまいとはちょっと違います。
サウナの気持ちよさはとても俗物的というか、これはもうお猿さんのような状態です。気持ちよくなりたいからやってるって言う。
TAL:お猿さんですか(笑)
ゆー:他人の気持ちよさは分からないけれど、一番よく聞くのは天井や床が水面みたいになるパターンです。
ドラマ「サ道」で描かれているととのいのイメージ
仕事の集中も、睡眠前のリラックスも自由自在
TAL:ちなみに、自分なりのサウナの入り方をゆーさんはお持ちですか?
ゆー:自分用のセッションがありまして、セットリとかセットリストってサウナーの間では呼ばれていますけれども「自分の中で気持ちよくなれるパターン」をいくつか持っています。今日は2時間あるからこのパターンで行こうとか、今日は60分しかないからこのパターンで行こうとかやるわけです。
私は大まかに2つあって、リラックスしたい時のサウナと、シャキっとしたい時のサウナがあります。交感神経優位で終わらすか、副交感神経優位で終わらすかによってその後の精神や体の状態が全然違うんです。
副交感神経優位で終わらせた時は、あとはもう寝るだけのような感じになります。サウナ施設でその日に仲良くなった人と、そこの食堂でご飯を食べていて、初対面なのに食べながら寝てしまう位のリラックス具合です。
逆に、交感神経優位のセッションで終わらせると、むちゃくちゃ仕事をしたくなったりします。先延ばしにしていた重めのタスクを「今ならできる!」と進められたり「あの仕事はこういう風に進めたら早いなぁ」とアイデアを思いつくことも。
私はリモートワーク中にサウナの休憩室で仕事をしていたりするのですが、仕事をして、ちょっとだれてきたので休憩でサウナに行って、上がってきてまた仕事をする。このサウナ後はめちゃくちゃ効率が上がります。
さらに良いことに、サウナ中は考えがめちゃくちゃまとまりやすいです。過酷なサウナ室内では余計なことを考える余裕がないので、仕事をあれこれ回り道せずシンプルに考えられたりすることが多いですね。
効率的にととのう「4:1:5の法則」
TAL:それは凄い!リラックスと集中、ゆーさんのそれぞれのやり方を教えてほしいです。
ゆー:私がリラックスした状態を作るには、短いパターンなら40〜60分あれば終わります。
「4:1:5の法則」というのがあるのですが、サウナ4、水風呂1、休憩5の比率ですると比較的楽にととのいやすいと言われています。時間としては「8分サウナ、2分水風呂、10分休憩」が基準で、これを自分なりにアレンジして楽しみます。
体への負担を考えると最大「12分3分15分」ぐらいまでが良いかもしれません。体の芯まで熱が入るのに必要な時間は約12〜13分と医学的に証明されていて、サウナでは12分入っていれば体に十分な熱が入るそうです。だからサウナには12分計がよく置いてあります。長針は1周1分、短針は1周12分の時計です。
自分で時間を計る場合は、カシオスタンダード(通称チープカシオ)を使っています。120℃の高温も冷水にも耐えますし、タイマー機能もあるので時間を計りながらサウナに入る人の多くが持っている人気アイテムです。
逆に、仕事で集中したい時は私の場合は1回休憩をカットします。4分サウナ→1分水風呂→また4分サウナ→1分水風呂→5分休憩(4:1:4:1:5)です。
休憩を短くすることで、交感神経優位の中に副交感神経もちょっと顔を出しているような状態を作ろうとしています。このパターンで終わらせると私は仕事に最高に集中できます。
私は最終的にはサウナは気持ちよければどんな方法で楽しんでもいいと思っています。実際、サウナと水風呂の入浴時間に上限はありますが下限はありません。上限というのも体の負担という意味での上限です。サウナ室に長く入ると効果がさほどない上に疲れるし熱中症リスクも上がっていきます。長く水風呂に入ると今度は体が冷えすぎて低体温症などになってしまうという感じです。私はととのうことが目的なので、寒いときや室温が低いサウナではよく20分ぐらい入っていますし、水風呂ではなくシャワーで済ませることもありますよ。
ゆーさん流、サウナのセッション 基礎知識 ・サウナで温める、水風呂で冷やす → 交感神経が優位になる ・休憩する → 副交感神経が優位になる 「温める・冷やす・休む」の組み合わせで、交感神経優位で終わらせるか、副交感神経優位で終わらせるかをコントロールする。 やり方 ・4:1:5の法則で実施する→リラックスする ・休憩を1回カットする→集中する |
サウナではむしろ太る
ゆー:ところで、サウナに行くと何が体にいいのかご存知ですか?
TAL:痩せたり、毒素が排出されるようなイメージがあります。
ゆー:サウナで良くなるのは血流と言われています。暖かいところに入ったら血管が開くじゃないですか。それで血流が良くなります。血流が悪いってあまり体によくありません。血行が良くなったおかげか、風邪をひきにくくなった、コリが解消したと言っているサウナーは多いので健康にはいいと思います。そして、サウナでは痩せません。むしろサウナに行ったら太るんですよ。
TAL:えっ、太るんですか???
ゆー:それは飯がうまいからです!めちゃくちゃ喉が渇いて、交感神経と副交感神経をバッキバキに使ってエネルギー代謝が良くなった結果、ものすごくお腹が空くんですよ。もうサウナから上がる頃は腹が減って仕方がないです。いつも以上にお酒はうまいし、「サ飯」というのですが飯もうまい。だからサウナに行ったら太ります。
TAL:「サ飯」食べてみたいですね。
ゆー:私はサウナ施設ごとに名物の料理があるので大体それを食べるようにしていますよ。
TAL:おお。気持ちよくなって、ご飯もお酒も美味しいのですね。行ってみたくなりました。ぜひ、ゆーさんのおすすめのサウナを教えてください!
ゆーさんおすすめのサウナ ・ゆーさんのホームサウナ:御徒町プレジデント ・本場フィンランドのサウナを体験:スパ&ホテル舞浜ユーラシア・池袋のかるまる ・アウフグースを体験したい:スカイスパYOKOHAMA・鶯谷のサウナセンター・錦糸町の楽天地スパ・神戸サウナ & スパ・大阪の大東洋 ・難波のサウナ&カプセルAMZA |
TAL:ありがとうございます。さっそく行ってみます。
↓次回【コロナがきっかけでテントサウナを購入。大自然の中でテントサウナを楽しむ】につづく↓