Travel 旅の記憶とつながるモノ

ayan
旅ライター&ブロガー
ayan
愛知県在住の40代女性。夫、娘2人、猫3匹と暮らしています。ブログは2004年から運営中。30代~40代の女性を対象とした暮らしのお役立ち情報やお試しレビューなどを書いています。旅行(海外&国内)と猫が好き。個人サイトのほか、トラベルメディアで旅ライターもしています。
英語の手紙

ローティーンの頃、カナダに住む同い年のカレンという名の女の子と文通をしていました。

「大草原の小さな家」シリーズや「赤毛のアン」、「ナルニア国物語」などの海外文学が好きで、外国に憧れていた私にとって、ペンパルから届く外国の切手が貼られた封筒は特別なものでした。

もちろん当時はごく簡単な英語しかわからなかったので、辞書と首っ引きで、学校の先生の力も借りて、たどたどしい英文を書き、届いた手紙を読んだものです。

どんな内容が書かれていたのかは今となってはほとんど思い出せませんが、手紙に小さなプレゼントとして外国らしいイラストのしおりが添えられていたことや、クリスマスにメープルシロップやキーホルダーの入った小包が届いたことはよく覚えています。

「これ、何千キロも旅をしてウチの郵便受けに届いたんだよ!」

嬉しくて家族に自慢し、まだ外国の匂いがするんじゃないかと包み紙に顔を近づけました。インクの滲んだ手書きの文字にも、想像をめぐらせたものです。

インターネットが発達して世界は小さくなり、いまや、日本の自宅にいながら遠い国のモノを取り寄せることは難しくありません。街中にも諸外国からの輸入品はあふれています。

現地に足を運ばなくても、憧れのブランドの食器や日本にはないデザインの洋服を買えるのはとても便利です。実際に、私もインターネットでたくさんのモノを買ってきました。

けれど、そうやって手に入れられるモノとは違って、かつてペンパルが私のために送ってくれたモノや自分で外国を歩いてマーケットや工房で買い求めたモノは、人や場所の記憶とつながるよすがになります。

それを手に取るとき、あるいは目に入るだけでも、色鮮やかな記憶がさあっと蘇るのです。

Kunětická hora castle
Kunětická hora castle in Czech

私は数年前から旅ブロガー&旅ライターとして、世界の国々や日本の各地を旅しています。

政府観光局や航空会社などが主催するプレストリップ(ファムトリップ*)に参加することもあれば、個人的にひとりで、あるいは子どもと旅をすることもありますが、とにかく旅の経験を文章にすることが生業(なりわい)です。

(*ファムトリップ=ターゲットとする国の旅行会社、メディア、ブロガーなどを招待して自国の観光スポットを体験してもらい、ターゲットとする国でアピールしてもらうことを目的とする旅行のこと。)

ayan

現在は海外を旅することが難しい状況ですが、いつかまた世界を旅できるように願いを込めて、友人のイラストレーターさんに描いてもらった「旅する私」の似顔絵を、デスク前の壁に貼っています。

CANON EOS 80D

似顔絵にも描かれているキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 80D」は、どこへ行くにも必ず持っていく愛機です。このカメラの前も同シリーズの「EOS 60D」を使っていて慣れていたこともあり、私にとってこのカメラは無くてはならないモノ。

このカメラを持って、フィンランド、エストニア、ラトビア、スペイン、チェコ、イタリア、ベトナム、韓国、台湾、グアム……いろいろな国と地域に行きました。

雑誌の取材では、ライターとは別にカメラマンが同行し、「書く人」と「撮る人」がいるケースが多いかも知れませんが、旅ブロガーや、ウェブ媒体の旅ライターは、自分で撮って自分で書くことがほとんどです。

ホイアンのリゾートホテルで朝ご飯

食事や体験シーンなど写真に人が写っているほうが良いと思われる場合は、モデルを自分でやることも。そんなわけで、旅の最中は(特にスケジュールが細かく定められているプレストリップ中は)忙しく、なかなかゆっくり過ごせる時間はありません。

それでも、取材場所で短い自由時間をもらえると、意識的に自分用のおみやげを買います。決して高いモノではなく、ポストカード1枚ということもありますが、何かを”連れて帰る”ことで、その場所との縁が生まれる気がするのです。

チェコで買ったガラス製爪やすり(ネイルファイル)

こちらは、チェコで買ったガラス製爪やすり(ネイルファイル)。

ガラス製爪やすりはチェコみやげの定番なのですが、これは世界的に有名なアートガラスメーカー「Moser(モーゼル)」のガラス工場見学をさせてもらった後に、併設ショップで購入しました。

「Moser(モーゼル)」のガラス工場(Czech)

このガラス製爪やすりを手にするとき、高温の工場で水をがぶがぶ飲みながら働く職人さんたちの姿を思い出します。チェコのガラス製爪やすりは日本でも買えますが、モノが温度と結びついているのは、きっと私があの場所を訪れたから。

こちらの写真は、バルト三国のひとつ、エストニアの首都タリンで撮ったものです。13世紀から16世紀にかけて築き上げられた旧市街の下町には、石畳の小路、ゴシック様式のとがった塔、切妻作りの家々、城壁など、中世の街並みが今もそのまま残っています。

石畳の旧市街がまるごとユネスコの世界遺産に指定されていて、歩いていると古い物語の中に迷いこんだような気がするほど。

そんなタリン旧市街の南東の入り口・ヴィル門の近くには、城壁に沿ってセーターや帽子、手袋などのニット製品を販売する露店が並んでおり、「セーターの壁」と呼ばれています。

数年前にセーターの壁の取材をした後、その近くにあるお店で、ウール100%のセーターを買いました。襟の形や留め具が日本ではちょっと見かけないタイプでしょう? とても気に入っていて、毎年冬になるとこれを着ています。

温かさと着心地の良さがお気に入りの理由ですが、それだけではなく、私にとっては「中世の物語の世界から持ち帰った」特別なセーター。この先、毛玉がたくさんできても、ほつれても、きっと捨てられないんじゃないかな、と思っています。

旅は一期一会。同じ場所を再訪することはできても、同じ旅は二度とできません。だからこそ、出会えた人や見た景色は記憶の中でいつまでも色彩を持ち続けるのでしょう。

非日常から忙しい日常に戻ると、その記憶を取り出して懐かしむことはなかなか難しいですが、旅先から連れて帰ってきたモノが記憶とつながるよすがになってくれます。

「モノより思い出」という言葉もあるけれど、単なるモノではなく、記憶とつながるモノ。これからもっと年を重ね、記憶の中の色彩が少しずつ淡くなっていったとしても、そうしたモノが自分の身のまわりにあったら、人生楽しいんじゃないかなあ、と思うのです。