フランスの田舎

Buyer フレンチアンティークバイヤーが見つけた
フランスの古くてかわいいモノ。

tamami
Photographer/Brocante Buyer/Blogger
tamami
フランスの田舎を巡るフォトグラファー。
ブロカントの買い付けやネットショップ・旅ブログ運営をしています。
https://apredemain.base.shop/
フレンチアンティークのラヴィエプレート

「アンティーク」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?

家宝のような骨董品やヴィンテージ、びっくりするぐらい高くて普通の人には手が出ないモノ、蒐集家が大事にしまい込んでおくモノ…、そんなイメージがあるかもしれません。

アンティーク(Antique)とはフランス語で「骨董品」のこと。ラテン語で「古い」を意味するアンティクウス(Antiquus)という言葉に由来するそうです。

もちろん、家宝になるようなアンティークも存在しますが、飾ってコレクションするためというより、普段の暮らしに溶け込む、もっと庶民的なアンティークも存在します。

フランスの古いモノ

例えるなら、暮らしに根付いた民芸品のようなモノ。民衆生活の中から生まれ、日常的に使われる道具や雑貨は、高名なデザイナーの作品でなくとも、長く愛され、使い続けられます。親子二代、三代にわたって愛用されることも珍しくありません。

そんな「古くて使い込まれたフランスのかわいいモノ」に心惹かれ、約10年前から現地に足を運んで買い付けをしている、フレンチアンティークバイヤーのtamamiさんにお話を伺いました。

フレンチアンティークバイヤーtamamiさん

ーー 初めまして。今日はフレンチアンティークについていろいろと聞けるということで楽しみです。まず、tamamiさんご自身のことを教えていただけますか?

tamami:はい。改めて名乗るとなると気恥ずかしいですが、あえて名乗るならフレンチアンティークバイヤー、そしてフォトグラファー、ライターをしているtamamiです。

フランスの蚤の市(のみのいち)で直接買いつけてきたアンティークや、旅先で撮った写真のポストカードなどをネットショップで販売しています。

ネットショップ→ 『après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)

après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)

ーー わ、おしゃれなショップですね。フレンチアンティークを好きになったきっかけは何ですか? ご両親の影響で子どもの頃から舶来品に囲まれて育ったとか?

tamami:いえいえ、アンティークとは無縁の、普通の田舎の家で育ちましたよ。両親もぜんぜん海外には縁がなくて…。でも、庭の花を摘んでポプリを作ったり、お菓子を焼いたり、手作りのものはいつも身近にあったかもしれません。

山の中を駆け回って遊ぶことや、秘密基地を作ることが好きな子どもで、とにかく好奇心旺盛でした。好奇心のままに突き進んじゃう傾向は、今も健在です。木や花など自然のものに心惹かれたり、何かを作ることが好きな性格は、幼いころに形成されたのかもしれませんね。

アンティークが好きになったきっかけは、十数年前、家を建てるときに、いろんなお家やインテリアショップを見て回って、「あ、いいな」と思うモノが、アンティークと呼ばれるものだったこと。

最初からアンティークがどういうものかはっきりわかっていたわけではなく、建てる家に置きたいなと思えるモノを探して買い求めているうちに、「私はアンティークが好きなんだ」と気づきました。

イギリス、アメリカ…いろいろな国から輸入されたアンティークが日本で販売されていますが、中でも私が心惹かれたのはフランスのアンティーク家具や雑貨でした。

フレンチアンティークの魅力って?

ーー フレンチアンティークのどういうところに惹かれたのでしょうか?

tamami:フランスには古いモノを大切に受け継いで修理しながら使い続けていく習慣があります。椅子やスツール、家具などはいい木材を使っているので丈夫で、デザインも素敵なモノが多いです。

いいモノを長く大切に使い続ける想いも好きで、アンティークにハマりました。

私は海外旅行が趣味で、フランスの田舎を回るときは、いつも古い邸宅を利用したシャンブル・ドット(Chambre d’hôte)を探して泊まります。シャンブル・ドットは、田舎の民家が空いている部屋を宿泊客に提供する、民宿とホームステイの中間みたいなものですね。

シャンブル・ドット(Chambre d’hôte)

ホテルと違って、フランスの普通の田舎暮らしを体験できるので、旅の楽しみの一つになっています。そんな田舎のお家では当たり前のようにアンティークの家具や雑貨を使っていて、センスもいいので、私もそんな習慣を実践したいと思いました。

ーー アンティークという言葉に明確な定義はあるのですか?

tamami:フランスでは作られてから100年経っているものをアンティーク(Antique)、100年以下のものをブロカント(Brocante)と言います。私がコレクション&販売しているのもブロカントです。

ブロカントとはフランス語で「古道具」という意味。ただ、日本ではブロカントという言葉が一般的ではないので、全部ひっくるめてアンティークということが多いです。実際には日本で流行っているアンティークはほとんどがブロカントですね。

フランスだとアンティークショップ(アンティキテ)とブロカントのショップは分かれているので、ひとくくりにするのは、本音では少し抵抗があります。でも、私は重厚なアンティークだけが価値があるとは思っていなくて、そこまで古くなくても、かわいかったらいいんです。

今日のブロカントは20世紀前半に中産階級向けに生産された実用的な家具や小物や食器などが多く、アンティークに比べて希少性は下がりますが、その分値段も手頃で、気負わず普段使いができます。

ブロカントは、庶民的で親しみやすいのが魅力ですね。

フレンチアンティーク

ーー ほかの国のアンティークにはない、フレンチアンティークフランスならではの特徴は?

tamami:あくまで私の感覚なんですが、フランスのアンティークはちょっと肩の力が抜けた、自然体でゆるいイメージです。きれいに飾り付けることよりも、生活の一部であることを重視している気がします。

私は自然ゆたかな田舎で育ったからか、生活に溶けこむように使うフランスの田舎流の使い方が好きです。雰囲気は、Instagramの写真を見てもらうと伝わりやすいかもしれません。

tamamiさんのInstagram(je_suis_tamami)

どうやってアンティークバイヤーになったの?

ーー アンティーク好きになってからアンティークバイヤーになるまでの経緯を教えてください

tamami:最初は東京や近郊にあるアンティークショップに何度も足を運びました。そこで、どんなモノがあるのか、値段の傾向、オーナーの嗜好で同じモノでも価格が異なることなどを知りました。古いモノはいい素材を使っているので、現行品と比べると違いはわかりやすいです。

ある程度アンティークショップめぐりをした後は、現地に住む人がYahoo!オークションに出しているアイテムのほうが安いことを知り、落札をするように。そして、たくさん落札をするうちに、実際に自分で買い付けをしてみたいと思うようになったんです。

もともと旅行が好きでヨーロッパには個人旅行で何度か行っていたので、そのころから旅程に「蚤の市めぐり」を加えるようになりました。

初めて蚤の市目的で行った街は、2009年に訪れた南仏にあるリル・シュル・ラ・ソルグ(L’Isle sur la Sorgue)。パリに次いでアンティークで有名&大きな街なので、最初に行きたかった場所でした。

リル・シュル・ラ・ソルグ(L'Isle sur la Sorgue)のシャンブルドット

泊まったシャンブルドットはこれまで泊まった中でもTOP3に入るくらいに好みのアンティークが使われた部屋で、今のインテリア作りの原点になっています。街全体がアンティークやブロカントで盛り上がっていて、フランスではこうした古いモノがとても身近なのだと認識&実感した旅でした。

スツールを購入

初期に購入したモノの中で印象に残っているのは、2011年、パリ最大の蚤の市と言われるクリニャンクール蚤の市(Marché de Clignancourt)で買った好みドンピシャのスツールです。常設のお店の奥に無造作に置かれていたものでした。

少し大きいので飛行機で持ち帰るのは難しいと思いましたが、値段が安かったので、万が一捨てることになっても惜しくないと、思い切って購入。手荷物にしたところ、たまたま親切なスタッフに当たったのと、当時は航空会社の規則もやや緩かったので運良く預かってもらえました。

その後も、日本のアンティークショップでは同じようなものが出回っているのを見たことがないので、見るたびにその時の様子が思い浮かぶ&思い出が蘇るモノであり、意外と航空便だけで持ち帰れるんだと知恵をつけた旅でした。

アンティークのスツール

本格的な買い付けを始めるのはこの旅の2~3年後になるのですが、何度も蚤の市めぐりをするうちに、場所によっても品物の種類や値段が異なることを知りました。例えば、パリよりも田舎町の方が、掘り出し物に出合えるチャンスが多いですね。

最初は自分が好きで集めていたのですが、自宅に収まりきらなくなってきて、販売することにしました。モノを見つけたり、交渉したりして、買い付けること自体が好きなので、自分の家には必要ないけれど「これ欲しい」ってなったら、あとはもう販売するしかない!と。

フランスの田舎に買い付けに行くようになって10年近くになりますが、そう頻繁に行けるわけではないので、1週間の滞在中に10か所くらいの蚤の市をまわります。おかげで、毎回帰りのスーツケースはパンパンで、重量オーバーになったことも(笑)

たくさん実物を見たり手にしたりするうちに、何となく見る目が鍛えられてきたのかなと思います。今では、ブロカントに限っては、モノを見たらだいたいの原価の予測がつくようにもなりました。

買い付けをするときに心がけていること

ーー アンティークの買い付けをするときに心がけていることはありますか?

tamami:「これ、かわいい。好き!」という自分の第一印象を大切にしています。「私の好みというわけじゃないけど、流行りっぽいし、売れるかも?」という気持ちで買い付けてしまったこともありますが、そういうのはなぜか結局売れないんですよね。

ネットショップに載せる写真や、紹介する文章に、愛がこもらないからでしょうか。自分が好き!と思って買ったわけではないモノだと、アイデアがあんまり沸かなくて、「家のここに置いています、こうやって使っています」ってアピールができないんですよね。

なので、とにかく自分の直感、心が動くかを意識しています。蚤の市で隣の人が手に取って買おうか迷っているモノがどんぴしゃ好みだったときは、心の中で「お願い、売れないで」と願っています。

アンティークは1点ものなので。目の前でほかの人に買われてしまったときは悔しいです。どうしようかなと迷って一旦戻したモノをすかさず他の人に買われてしまった経験もあります。失敗を重ねて、いいなと思ったら迷わず買うように心がけていますね。

それから、私はアンティークはディスプレイするよりも実際に使いたいんです。なので、古い時計であればちゃんと動くかどうか、お皿であれば使用に差しさわる大きな欠けや貫入※がないかしっかりと確認するようにしています。

※貫入とは陶磁器の釉薬(うわぐすり)の部分にできる細かいひび模様のこと。不良ではなく、多くの陶磁器に見られるもので、貫入の表情は鑑賞の見どころとされることも。

がらくたの中から魅力あるモノを発掘

ーー 蚤の市って、日本のフリーマーケットみたいな感じなんですか?

tamami:そうですね、フランスの田舎の蚤の市は、日本のフリーマーケットをイメージしてもらうと近いかもしれません。屋根裏部屋にしまってあった不要品をごそっと持ってきて、無造作に並べている人も多くて、まさに玉石混交。

蚤の市の様子は、ブログの記事にも書いているので興味があったら見てみてくださいね。
→ ヴァンヴ蚤の市(Marché aux puces Vanves)でアンティーク雑貨を探そう

オーナーさんが「これは売れないだろう」と無造作に置いてある段ボール箱の中をごそごそやると、がらくたに混じってとってもかわいい食器や雑貨が見つかることがあります。

そのフランス人にしてみたら、もう自分は使わないモノだから売りに出していると思うんですけど、日本人の私から見たらかわいくって。

例えば、上の金属製の古道具。蚤の市で見つけた時にはサビサビで汚い状態だったものの、デザインがシンプルでかわいかったのと、小ぶりのものはあまり見かけないのでペンキを塗ったらかわいいかもしれないと購入したモノです。

少し大きく送るのが大変なので、販売用にはせず、ブルーグレーにペンキを塗り直して自宅用として、庭に置いて使っています。

私は「これ買ってください」って陳列されているモノより、がらくたの中から「おっ!」と思えるモノを見つけ出すのが楽しいんですよね。「あー、見つけた、ここにあったのね!」っていう。宝探しをしている感じに近いかもしれません。

ーー その目利きがすごい! 見つけたときに使用シーンのイメージが沸くんですか?

tamami:そうですね。蚤の市では、いろんなモノが無造作に段ボールに突っ込まれていたり、泥がついていたりもしますが、そこに埋もれているかわいいモノを見つけると、

「これ、きれいに洗ってお花を生けたいな」
「手芸道具を入れておいたらかわいいかも!」
「この器にはパンを載せてみたい」

…というイメージがどんどん涌いてきます。私はモノは飾るよりも実際に使いたいと思っているので、どう使うかを考えながら買い付けることも楽しみです。

目利きという言葉がありますが、自分の”目”でがらくたの中から魅力あるモノを発掘し、それを自宅に連れて帰ること、私と同じような好みを持つ人たちに届けることに喜びを感じます。

そして、屋根裏でほこりをかぶっていたモノが再び日の目を見て、日本の誰かの暮らしを彩り、道具として使われることで、”古いモノを大切に受け継いでいく”循環の一役を担えた気もするんです。

”使命”といったら大げさかもしれないけれど、アンティークバイヤーって、長い年月を超えて、モノとヒトのゆたかな生活をつないでいく仕事なんじゃないかな、と思います。

お気に入りのフレンチアンティークを教えて

フランスの田舎

ーー フレンチアンティークの魅力やバイヤーになったきっかけ、蚤の市でのエピソードなど、とても面白かったです。ところで、tamamiさんがこれまでフランスの蚤の市で買い付けたモノの中で、特にお気に入りのアンティークってどんなものですか?

tamami:たくさんあって難しいんですが、特に気に入っている5つを紹介しますね。

①ジャグ

フレンチアンティークのジャグ

tamami:フランスでは水差しとして使われていた古いもので、そのフォルムや色合いに一目惚れして購入して以来ずっと大好きで、蚤の市でも見つけるたびに買い付けています。

複数あっても好きすぎて、売ることができないものです(ショップのロゴにも使っています)。

après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)

②ラヴィエプレート

ラヴィエプレート

tamami:ラヴィエプレートは前菜用のプレートで、初めて蚤の市で見つけたときはそのフォルムの可愛さに心惹かれました。フランスではサルグミンヌという窯元から出ているデザインが素敵で、それ以来見つけると必ず買い付けるようにしています。

小ぶりなプレートなので使いやすく、前菜やスイーツだけでなくアクセサリートレイとして使ってもかわいいです。

③JAZ時計

アンティークのJAZ時計

tamami:フランスのJAZ社という1919年パリ生まれのメーカーが生産した古い時計です。アンティークの古いモノには鳥のマークが入っています。この鳥のマークや針が特徴的でかわいく、虜になりました。

見つけたら、必ず「これは実働?」と動作確認した上で、買い付けています。アナログならではのカチコチ…という音や、ちょっと素朴なデザインが持ち味で、そこに置いておくだけでほっこり優しい気持ちになれる時計です。

④オルゴール

アンティークのオルゴール

tamami:オルゴールは2019年夏に訪れた蚤の市で、オーナーが手にしていたものをぱっと見てその可愛さに売って欲しいとお願いして手に入れたものです。なんともいえない懐かしさがあり、見るたびにノスタルジーを感じています。

⑤パニエ(カゴ)

tamami:リヨンへ行くと必ず立ち寄る常設の蚤の市の食器屋さんで、買い物カゴ代わりに使われていたパニエ(カゴ)に一目惚れして売ってもらいました。大きくて日本にはありそうでないものなので、収納カゴとして使っています。

ここで紹介したお気に入りのモノの一部は、ネットショップ『après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)』にも出しています。

ーー どれも本当にかわいいですね! 親しみやすく、生活にそっと寄り添うようなブロカントの魅力がわかった気がします。今日はとても興味深いお話をありがとうございました。

tamami:こちらこそ、ありがとうございました。

編集後記

フレンチアンティーク

高価で、大事にしまい込んでおくモノ…、そんなアンティークのイメージが、tamamiさんのお話を聞いてがらりと変わりました。実用的で、庶民的で、使ってこそ輝くアンティーク(ブロカント)。

「キズや汚れも時を刻んだアンティークの良さ」「この色になるまでにどれくらいの年月を経たんだろうと思うと、とても愛おしくなる」そんなお話を聞いていると、フランスの田舎に行ったことがなくても、そのモノの来し方を想像してしまいます。

フレンチアンティーク

もしかしたら、このお皿には、フランスの美しい村で収穫されたばかりのみずみずしい葡萄が盛り付けられていたのかもしれません。数十年前、名も知らぬフランスの誰かが、このワインオープナーでワインを開けて家族との夕べを過ごしていたのかもしれません。

デザインがかわいい、使い方を考えるのが楽しい。そういう魅力はもちろん、長い年月に渡り大切に使われてきたのだろうと、そのモノにまつわる物語にも想像をめぐらせて楽しむことができます。

après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)

tamamiさんのネットショップ『après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)』は、決して大きなお店ではありませんが、リピーターが多く、中には一人で20回も買い物をしてくれたお客さんもいるのだとか。

「お店を大きくしようとは思っていないんですよ。アンティークが本当に好きで、気に入ったモノを密かに好きな方に見つけていただけたらと思い運営しています。古いモノに慣れていない場合や気になるけれど迷った場合は、買わずに一度ゆっくり考えてください。」というtamamiさん。

そんなに商売っ気がなくて大丈夫かな…と思ってしまいましたが、そういう気持ちで運営されているショップだからこそ、リピーターがつくんだろうなと納得しました。

このモノがたりを読んで、フランスの古くてかわいいモノに興味を持ったら、tamamiさんのネットショップをのぞいてみてください。手元にあるだけで幸せな気分になれる、世界にたった一つのモノと出合えるかもしれませんよ。

après-demain brocante(アプレ・デュマン ブロカント)
※本記事の写真はすべてtamamiさんご自身が撮影したもので、許可を得て掲載しています。